法人向けインターネット回線と個人向けインターネット回線では、通信速度などのスペックやIPに関連する提供形態に大きな違いがあります。
これから企業で安定した高速通信を行いたいと考えているのならば、これらの点を考慮して比較しなくてはいけません。
どのサービスを選ぶかでこれからの環境が異なってきますので、まずはサービス内容の違いを理解していきましょう。
固定IPアドレスが利用可能
法人向けインターネット回線サービスでは、家庭用のサービスと異なってIPアドレスが常に同一のものになる「固定IPアドレス」を利用することができます。
一方、家庭用のIPアドレスはインターネットの接続環境を変化させるごとにIPアドレスが変わってしまう仕組みになっています。
例えば、インターネットに接続するときには必ずIPアドレスという識別番号が与えられるのですが、パソコンの電源を一度落とすと、次に接続するときには以前とは異なったIPアドレスが与えられます。そのため、同じパソコンから接続していても、インターネット上では別のところからアクセスしていると判断されます。
このとき、固定IPアドレスという特別なIPアドレスを利用すれば、Webサイトなどを公開していてもインターネット上での場所が常に同じに保たれ、利用者がそのサイトにアクセスすることができます。(反対に固定IPアドレスを利用しないと、利用者はそのサイトを探し出すことができずアクセスできません)
また、固定IPアドレスはセキュリティ対策を行う上でも非常に重要だと言えます。本社の他に支社や支店がある場合、地理的に離れた拠点同士の通信を安全に行うためVPNという特別なネットワークを構築する必要があります。これは、通信経路を通過中のデータを暗号化して、盗み見られても情報漏えいしないようにするための対策です。このVPNを構築する際にVPNルーターという専用の機器に固定IPアドレスを設定する必要があるのです。また、外部からの不正なアクセスを識別して遮断するようなセキュリティ対策を行うときに設置するファイアウォールの設定にも固定IPアドレスは使われます。
最大速度の「1Gbps」は実際に出る速度ではない?
個人向けでも法人向けでも、最近のインターネット回線サービスのスタンダードは「1Gbps」という速度です。しかしこの「1Gbps」は実際の通信を行う上で発揮されるスピードではありません。極端な言い方をすれば、「1Gbps」ものスピードが実際に出ることはまずあり得ません。
どういうことかと言うと、この「1Gbps」の前に付いている「最大」という表現が重要なのですが、これは回線の持つ通信能力の限界が1Gbpsということを表しています。理想的な条件での理論上の最大速度なので、実際の通信でその最大値が出ることはほぼありません。
様々な要因が関係し、実際の通信における速度は数十Mbps~数百Mbpsになるのですが、同じ料金を支払っている同じサービスのユーザー間でもばらつきが出てきてしまいます。実際どれくらいの速度が出るのかは通信を行ってみないと通信事業者でも分からないので、ユーザーからクレームを受けないように「ベストエフォート」(最大限の努力)と表現して、実際の速度を保証することも、これまでの実績などを開示することもできないのです。
「共有型」と「専有型」の違いを理解しよう
さらに言うと、個人向けのサービスは「共有型」と呼ばれる構成が一般的なのですが、これは1Gbpsの通信能力を持つ1本の回線を何本にも分岐させ、近隣のユーザー同士で共有しているということです。つまり共有しているユーザーのうち自分たちの他に1ユーザーでも通信を行っていたら、1Gbpsという回線の能力すべてを自分たちの通信のためだけに使うことはできないということです。共有しているユーザーの通信の総量が増えれば、それだけ回線は混雑し通信に遅れが生じやすくなります。
一方、法人向けの回線には「専有型」という構成のものがあります。これはさきほどの「共有型」とは異なり、1Gbpsの能力を持つ回線を1本まるごと1ユーザー毎に引き込むものです。こちらも「ベストエフォート型」である限り、1Gbpsという最大値の速度が出ることはありませんが、1Gbpsの能力をすべて自社の通信のためだけに使える分、「共有型」の回線よりも速いスピードが期待できます。
このように、同じ「最大1Gbpsベストエフォート型」の回線でも、「共有型」と「専有型」の違いによって実際の速度に差が生まれることが分かっていただけたと思います。
回線を選定する際には、「1Gbps」という速度表記だけに気を取られその他の重要な条件を見逃さないように気を付けましょう。